2002 根岸 雅史さん 絶対評価におけるテストづくり◎5月春の1日研修会 2002年5月18日 9:30~5:00フォーラム横浜 ランドマークタワ13階 セミナールーム1にて 参加者:20名 ●2002.5 講演:「絶対評価におけるテストづくり」 根岸 雅史さん(東京外語大助教授) ◆ 相対評価から絶対評価へ。このパラダイム転換に中学の現場は耐えられるのか。選別のための評価ではなく、生徒を励ます評価でありたいと願うだけでなく、まずどう変わるのかを教員が説明できるだけの知識を持つことが必要です。制度としてどう違うのかの視点を的確に与えてくださる有益な講演でした。 (1) 事前学習 ・ 4月の例会で萩原先生が用意してくださった記事を元に事前学習。 ・「センター試験のリスニング導入に向けて」『英語教育』(2000.10) ・「単語テスト作成のコツ」『英語教育』(大修館書店2002.2)] ・ 根岸先生の視点その1:リスニング ・作問の偏り:「テストスクリプトの多くが会話であり、指示文やニュースなどのいわゆるモノローグ・タイプが比較的少ないという点も目につく」 ・発話状況設定の欠如:「スクリプトがどのような状況で聞こえてくるかというような情報が指示文の中に与えられているような問題はきわめて少ない」「これまでの大学入試のリスニング・テストでは音声がどこからともなく降ってくるものが多かった。どこの誰だか分からない2人の話者の会話を聞いて、その内容を問うという典型的な問題形式は、自然なコミュニケーションとはほど遠い」 ( 知らない人の会話を盗み聞きするなんて…、ほんとうにスパイみたい) ・ 根岸先生の視点その2:単語テストを2種類に分類 ・「単語をいくつ知っているか」という広がりを測るテスト 絵/日本語訳/類義語や反意語/定義/文脈を用いる ・「それぞれの単語をいかによく知っているか」という深さを測るテスト コロケーション/単語のカテゴリー/派生語や変化形 (2) 絶対評価 ・ 相対評価から絶対評価への「パラダイムシフトのための10箇条」 1 指導目標は必須[何を指導するか] 2 到達目標は必須[どこまで到達するか設定] 3 評価は複眼化[テスト以外も評価に入れる] 4 テスティングポイント明確に 5 総合問題は不可 6 直接的測定が必須 7 高い信頼性(reliability)が必要[同じテストで同じ結果を出す] 8 テストの合計点は不要 9 「ごった煮採点」は無意味 10 説明責任重い[その評価がついた理由を生徒に説明できる] ・ 評価の出し方、評価基準は学校ごとに決める/指導目標と到達目標の設定 ・ 評価計画の作成:テスト以外の方法を用いるか[スピーチ、インタビュー、ポートフォリオ、学習ノートなど] (3) T先生の試験問題をチェック ・ 根岸先生が指摘されたポイント ・問数は1つの観点(テスティングポイント)で10~20は必要。 ・リスニング問題で質の違う絵を一度に6つ見る設問では負担が多すぎる。 1つの絵に対して4文聞かせるタイプにするとよい ・ 参加者の意見:リスニングテスト問1で、問題の本文を聞かなくても答が類推できてしまうということでvalidityに欠けるという指摘がありました。すると、根岸さんの考える「純粋な英語力を測るテスト」とは、受験者が生きている社会と自分とのかかわりや世界認識などを排除して、純粋に文法知識や語彙力だけで解ける問題を作るしかなくなり、非常に作りにくい、またはつまらない問題になってしまわないか、という気がします。聞いた英語が分る、あるいは読んだ英文の意味が分かるということはその人の生きている世界があって、ことばと結びつき、初めて意味のある文章になる。これは、国語だろうと英語だろうと同じだと思います。ならば、環境問題なり、ごみ問題なり、その人の知識が英語と関係なく正解に結びつくこともありうるし、構わないではないかとも思います。「純粋に英語力だけを測るテスト」はあるのでしょうか? ・ T先生の感想:懇親会の席での泉さんの指摘は重要でした。あの本文では森林破壊や紙問題を解決するのは自助努力といった選択肢しかなかったこと、(本当の自然破壊やエネルギー問題の根源は個人の努力より、企業や政府の責任が大であること)です。どうしても中学生のテストの英文としてあのようなこじんまりしたものになってしまいましたし、教科書で扱っている場合も然りです。[新しいTOTAL3年では、カリフォルニアの高校生が川のごみそうじから始まって、州政府に働きかけ、ダムを放流させたという積極的な活動の話が載っています。] ■参加者の感想 ・ タイミングの実にいい講演で勉強になりました。今、中間テスト(中1)の聞き取りテストを作ってますが、本日の勉強を役立たせたいと思います。 ・講演のみ伺いました。TOFELについてお話を伺いながら考えておりました……。 ・ テスト作問への参考に大いに役立ちました。 ・示唆に富んだ講義でした。10年位前よりテスティングポイントをしぼった小問を10問集めて定期テストを作っています。これからは小テストの工夫をして定期以外に少しすべきと思います。 ・ 自分の授業を振り返りながら聞きました。もう一度(ならず何度でも)分析し直しだなぁと。すごく科学的な印象に「しりごみ」しつつ、いずれにしても、生徒の励みになる形で評価し、フィードバックしていきたいです。 ・今後観点別評価について勉強していこうと思いました。4月の授業のオリエンでは生徒に到達目標を示せるようにしたいと思います。 ・テスト作りの原理・原則がとてもわかりやすく理解できた。自分のやっているテストを振り返る観点がしっかりと確認できた。 ・重大な責任を負わされる教師たち。これから先、そのような責務に耐えられる教師が何人いるだろうか? クラスサイズを小さくするとか、持ち時間を少なくするなど負担減を政府(文部科学省)が考えなければ、教師はやってられないだろう。 ・絶対評価についてもやもやしていた部分が伺えて良かったのですが、これからすぐ中間テストを作成する立場としてはかなり神経を使わなければと感じました。 ・ まさに今後の英語教育の大きな転換期にきていると実感した。指導目標、到達目標を明確にすること、今、部会の中で作成中です。この論議では「授業で何を子どもたちにつけさせたいか」が問われます。産みの苦しみですが楽しいです! |